「実証」「虚証」と職業

実在の方のお名前を出して恐縮ですが、小椋佳さん。「愛燦燦」や「シクラメンのかほり」など、数多の名曲を作られた、シンガーソングライターです。

銀行員としてのお顔もあったことを、ご存知の方は多いでしょう。徹夜でマージャンをされて、その後、お仲間は休んでも、ご本人は朝から職場に直行してバリバリお仕事。

東洋医学でいう、「実証(じっしょう)」の典型みたいな方です。体力があり、「夜討ち朝駆け」ができる。ご飯を食べるのもきっと早い。寝不足も何のその。

昔、病院で三交替勤務をしていた頃、同期のナースにもいました。深夜明けでそのままテニスに行く強者が。同じ人間なのに、何がどうなったら、あんな凄いことができるのか?と、いつも呆気に取られていました。

私はといえば、夜勤明けはいつも、寮に帰って泥のように眠り、気づくと夜になっていて、夕方からの病棟の会議にも出られない有様でした。実証とは真逆の、「虚証」です。考えたら、幼稚園では、お昼を食べるのが遅くて、クラスで最後まで残されているクチでした。

それでも、病院勤務時代は昼食も数分でかき込めるようになりました。決して褒められたことではないのですが、環境的に、慣れるしかないわけです。どんなに疲れがたまっていて辛くても、スピードが要求される仕事ゆえ、もたもたできない。でも、それも長期となりますと、やはり虚証の身には無理があり、身体が悲鳴を上げます。本当はゆっくり食べたいし、基本、ロングスリーパーです。

実証、虚証、世の中には両方のタイプの方がいて、どちらが優れているというわけではありません。ただ、職業選びの時には、どうしても多少の向き不向きができることは否めません。その人にとって、長いこと、心身ともに無理なく、持てる力、個性を発揮するのには、こうした違いが生まれつきあることを知っておくほうがいいわけです。

以前、やはり虚証タイプの患者さんが、「子供の頃に、こういう話を聞きたかった」と仰ったことがありました。学校の先生になる方々、これからお子さんを持つ方々に、東洋医学ではこういう考えもあるということを、知っておいて頂けたらいいなと思います。

その観点でいうなら、ナースを選んだことは大失敗だったかもしれません。でも、医療の道に来ていなければ、鍼灸師にもなっていなかったでしょう。

小椋佳さんが、もし「虚証」だったら、あの名曲の数々は、生まれていなかったかもしれません。

つくづく、人間って不思議です。

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