先日、親族の家で、大型犬をシャンプーする番組を偶然見ました。その時に、出演していたあるタレントさんが、犬を洗った後のお風呂場を、丁寧に掃除されている様子が映ったのです。勿論、テレビの番組なので、いろんな解釈があるとは思います。でも、多分これは、このタレントさんの本当の姿なのだろうなと、信じたい自分がいました。
そのシーンを見た時に、10年以上前の記憶が浮かんだのです。11月の初め、とある、東北の鄙びた温泉地のこと。そこは山深い場所なので、冬は営業していません。仕事の関係でやっと取れた休みが、その、営業最終日の前日でした。しまった、これは迷惑をかけてしまう…。長期休業の前の、宿の人が一番忙しい日だったからです。
恐縮する私に、嫌な顔のひとつもせず、皆さんは迎えて下さいました。もう1組位、車のお客さんがいたような…。翌日、チェックアウトの前に、従業員らしき高齢男性が、黙々と、トイレのスリッパの裏まで、一つ一つ拭いていらっしゃるのを見かけました。当分はお客さんも来ないであろうその時期に、私なら手抜きしてしまいそうな日に、本当に丁寧に作業されていました。そして、歩いたら1時間以上かかる「最寄り駅」まで、従業員の方達の車に乗せて貰い、一緒に山を下りることに…。
1日に、殆ど停まる列車のないその駅そばの、たった1軒のかわいい食堂で、彼らの「お疲れ様宴会」が、ランチタイムに催され、私も奥の部屋で同じ山の幸を頂きました。食堂の奥様は、以前、夏の訪問時に、帰りの電車が地震で止まり、ターミナルまで軽トラで送って下さった方です。一見のんびりしていらっしゃるけれど、大変な気配りのプロです。そこの山菜料理は絶品で、生きているうちに是非また!と思っています。
テレビの話から、ずいぶん脱線しました。東北の厳しい自然の中で、人の見ていないところで丁寧に掃除をしていたあの小柄なおじさんの丸い背中と、番組でお風呂を磨くタレントさんがふと重なったのです。
後からたまたま、そのタレントさんも昔、生死の境を彷徨うほどの大怪我を経験しているという記事を読みました。それが何かはわからなくとも、大いなる存在や自然に守られて今生きていること、その人生観というか、死生観、ある種の「畏れ」のようなものが、なんでもない一瞬に「人」の「振る舞い」に出るものなんだなぁ、ということを感じたのです。
がさつに生きていると、それも絶対に表に出てしまうな、と、自戒を込めて思ったことです。