「表情」のない子供達

古い書類を整理していて、うわぁ、と思わず声に出てしまいました。段ボールから出てきたのは、1989年のお正月の新聞です。「かさねことばかるた」(五味太郎さん作)という、「あ」から「ん」までの五十音で始まる「重ね言葉」を、可愛い、ユーモラスなイラストにしたものが、ドーンと全面に載っているのです。

「あつあつ」は、双方、目がハートになっているカップルが寄り添っていたり、「きびきび」は、千手観音みたいに腕が沢山ある人が、キリッとした表情で電話を取り、かつ何か書いていたり…。「もじもじ」は、腕が、俳優の故、中尾彰さんご愛用だった「ねじねじ」スカーフのようになっている2人がいたり。

絵が、あまりに面白くて可愛らしいので、20代の時にとっておいたのでした。ふるっているのが五味さんの説明文で、これがまた、全部「重ね言葉の重積」になっているのです。徹底しています。新聞紙は、黄ばむのを通り越して茶色になっていました。

今時なら、スマートフォンで写真を撮れば一瞬で終わりでしょうが、当時はそんなものはない時代ゆえ、紙面ごととっておいたのです。たった1コマの絵だけで、言葉の意味が手に取るようにわかる。日本語を学ぶ外国の方に見てもらったら、きっと一目瞭然で笑いが出ること間違いなしでしょう。50通りの、豊かな表情、人の喜怒哀楽があります。

その新聞が出てきた数日後、朝、ゴミ出しに出ると、登校途中の小学生が何人か歩いてきました。1人ずつ離れて数人いたでしょうか。みんな、疲れ切ったような表情でうつむいて、お年寄り以上に背を曲げて、だるそうです。「おはよう。気をつけて、行ってらっしゃい」と声を掛けましたが、例外なく、目を合わせないどころか、誰も顔をあげませんでした。見知らぬオバサンには応えぬこと、か…。清志郎さんではありませんが、「殺伐とした世の中」が子供達にまで及んでいる?と、ちょっと怖くなりました。それとも、単にスマホとかで寝不足なのか?

別に、愛想よく返事をしてほしいとは思いませんが、ずっとうなだれて歩いている彼らがとても心配になったことです。

この「重ね言葉」のイラストのように豊かな感性をもって育ってほしいけれど、どうなんだろうか?と、考えさせられた朝でした。

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